作品の成り立ち

文責:佐藤智也(監督)

 この企画は、CS放送のCOMIN'SOON TVで90秒(正確には75〜105秒)の映像を2本流すというもの。予算はあまりないが、作者の自由に作ることができる。90秒で何ができるか試してみたくて、挑戦させてもらった。

 最初に90秒で何が見せられるかを考えた時、90秒に都合がいいのは役者の芝居中心かな?と思って、知り合いの役者さんたちに「何かネタない?」と話を振ってみた。友人の結婚式でたまたま同じテーブルについた井上直美さんも役者だった。めでたい席そっちのけで、唐十郎の自己崩壊の芝居について話す。
 その後も自己崩壊のストーリーを練り、1ヶ月後に1日だけの撮影を計画。相手役は井上さんに紹介してもらった程嶋しづマさん。俳優の演技を見たことないまま、前もっての台本読みやリハーサルも行なわないまま撮影に突入するのだが、お二方とも経験豊富な役者さんなので、特に問題もなし。

 2本作る必要があるので、それならば一つの出来事を女視点と男視点で描いてみようと思った。「一つの現実を別々の角度から捉える」というのは、映画という媒体が得意にする描写。黒澤明監督の『羅生門』(50)や、最近ではオドレイ・トトゥ主演の『愛してる、愛してない...』(02)もそんな感じ。
 もう一つ挑戦したかったのが、マルチ撮影。DVカメラをスタッフに持ち寄ってもらい、5台のカメラでいっぺんに撮る。これが面倒な事態を招いた。なにしろマンションの一室にカメラを5台設置したので、部屋の3分の2以上がいっぺんに写る。スタッフの隠れ場所がない。「そこにいると写るぞ!」「それ、誰の影だ!?」「もっと腹を引っ込めて!!」画面チェックの罵声が飛び交う現場となった。
 その分、編集は楽。編集というよりスイッチングなのだから、どうつないでもタイミングはピッタリ。いろんな選択がありすぎて、逆にいつまでも決定できずにチョコチョコといじっていたりする。ブライアン・デパルマみたいな画面割りを目指してみたりもする。

 90秒は思った以上に長くて、表現としてうまくいったかどうか自信はないが、自分としては気負いなくいろいろ実験できた企画だった。CS放送を観ている人が何気なくこのドラマを目にして「なんだ、今のは?」と思ってくれたら、自分としては満足である。

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