最近の仕事にまつわる
いくつかの記録

●ケース1
性別/男性 年齢/24歳 職業/文具メーカー営業 

本人の言葉より
『はめられたんだ。
僕のことを嫌ってる奴らに。
よくあることだけど。
もういいよ。誰のことも思い出したくない』

 神経質そうな、やせた男性。インターネットで手に入れたという拳銃を持ちながら、ぼそぼそと語り始める。なかなか踏ん切りがつかないらしく、何度も拳銃を口に入れたり出したりしていた。きっかけがつかめないから、合図を送ってほしいと言われたが、それは自殺幇助になるから、と断わる。自分で必死にタイミングを計るが、指先はうまく力が入らないようで震えていた。が、勢い込んだ瞬間に引き金を引く。銃声が建物の中で反響して、とてつもなく大きな音となった。

●ケース2
性別/男性 年齢/72歳 職業/無職 

本人の言葉より
『家内や息子は驚くかな?
きっと迷惑だろ。自殺なんかされたら、周りから何か言われるだろうし。
申し訳ないとは思うが、でも、生きていては駄目なんだ。
家族が迷惑するから生きるなんて、やっぱり意味のないことだ』

 やさしそうな、温和なおじいさん。昔ながらの古い家屋を訪れた私を正装で迎えてくれ、お茶を自分でいれてくれた。家人は皆、留守にしているらしい。おじいさんは家の中を名残惜しそうに眺めながら、今までの自分の話や家族の話をひとしきり語る。途中何度か私に向かって、年寄りの愚痴に付き合ってくれてありがとう、と礼を言っていた。このために買ってきたという新品のロープを取り出し、梁にかける。首にロープをかけた後、奥さんが選んでくれたという帽子をしっかりと被り、迷うことなく踏台から足を浮かせた。

●ケース3
性別/女性 年齢/19歳 職業・学生

本人の言葉より
『うん、死ぬよ。簡単に死ねる。
腰さえ浮けば大丈夫。本に書いてあった。
本気だよ。
なんでかな。よくわかんない。
死ぬのもありかなって。
よくわかんないけど』

 若い子らしい鮮やかな色彩のシャツにショートパンツの軽装。深刻さは微塵もなく、遊び半分でやっているよう。自殺する理由については全く触れず、今まで試してきた方法ばかりを述べている。本人にとっては実験の意味が濃いようだ。ドアノブにタオルをかけ、この高さでも自殺は可能だと本で得た知識を披露。要は腰が浮けばいいのだという。表情は解放感に満ちているようにさえも見える。タオルに首をかけて、足を前に投げ出す。躊躇することもなく、重々しさもなく、子供がいつも遊んでる滑り台を滑り出すかのように、呆気なかった。


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