MA

 MA(マルチ・オーディオ)とは整音作業のこと。セリフや音楽、効果音などの音素材を映像に合わせてバランスを整え録音していく。これも編集同様、SKIPシティで行なうことになった。

 MAの前に音素材を揃えなければならない。まずは、音楽の佐々木華音氏より曲をもらう。Far East Eclipse等のバンドでは激しい曲を書く佐々木氏だが、きれいな曲はひたすらきれい。ピアニストの多田遠那氏が華麗に演奏し、途中から不協和音が入ってくるという異質な曲もある。(「AUGE」オウジェというタイトルの曲で、エンディングクレジットのバックに使用)
 音響効果の塚本桂三氏(Y's project)には効果音を作成してもらう。映画やVシネマなどを数多くこなしている塚本氏の音源は、とても豊富。銃声一つにしても、ドンやズドンやバンやパンやバキューンなどいろいろ。時代劇でよく使われる、刀を刺す音と抜く音。「そんな音、本当はしないんだけどね」と塚本氏は笑う。ホラーっぽい効果音(ドロドロドロ〜みたいなやつ)もたくさんあったので、たくさん使わせてもらった。
 また、現場で同時録音されたセリフのバランス調整は、主演俳優のまんたのりお氏がスタッフ・荻久保則男に変化(へんげ)して自ら作業した。

 これらの音素材を塚本氏が前もって整理しておき、そして2004年1月21日、SKIPシティのMAルームへ。塚本氏とSKIPシティのMAエンジニア・高田義紀氏がどんどんと作業を進めていく。
 一つだけ、その場で録り直した音素材もあった。水気を含んだ物が床に落ちるピチャンという音。撮影現場でも録音していたが、音がもう一つ良くない。で、アフレコルームのマイクの前で再現。やっぱり良くない。代用品として濡れたティッシュを床に叩き付ける。こちらを採用。リアルな音はリアルに聞こえないというのは、ままあることだ。一方、死体が倒れて床に頭を打ち付ける音は、現場の音そのまんま。ゴツンとかなりいい音がしています。撮影時は気付かなかったので同情しなかったが、あしかがあや氏の頭を打ってもまばたきしない女優根性に敬礼!である。
 編集室と同様、ここでも監督は特にすることがない。後ろで作業を見守りながらお菓子を食べているだけ。玄関から朝刊を運ぶ賢い犬ほどにも役に立たない。しかも、この日は荻久保氏に編集の亀山氏、知り合いの映画監督・樋本淳氏に地下テントろばくんのメンバーと、見学者がやたらと大勢。SKIPシティの椅子はリクライニングがとても利くので、妙にリラックス(塚本氏、高田氏以外)した中で、夫による妻殺しの映画は完成したのでした。

スイッチがいっぱいで、頭がクラクラします。

左が音響効果の塚本氏

アフレコルームでティッシュをピチャン

とても痛そうな音がしていました