編集

 『舌〜デッドリー・サイレンス』はHDCAMで撮影された。撮影されたまではいいが、ここからどうしたらいいのかがさっぱりわからない。HDってどこで編集すればいいの? いや、その前にどこに行けば見れるの?
 HDCAMのテープを抱え困っているところに、救いの手が差し伸べられる。SKIPシティに本拠を置く12の眼だ。代表の大谷寿一氏に相談すると、SKIPシティの施設でHDCAMからDVCAMにダウンコンバートできるという。そして編集に関しても、Final Cut Proで編集されたDVCAMのタイムコードを、SKIPシティの編集室のCine Waveで吸い上げて自動的にHDを編集できることがわかった。
 ゼロから編集するために編集室を何日も借りるとお金がかかるが、Final Cut Proで編集済みのデータを写すだけの作業なら1日で済む。かくして、『イリヤ』の編集もやってもらった亀山愛明氏(ジーシーピクチャーズ)とともに編集作業に取り掛かる。

 編集と並行して合成カットも作業を進める。デジタル合成松岡勇二氏、足立麻沙子氏(日本映像クリエイティブ)は『ゴジラ』や仮面ライダー、戦隊シリーズも手掛けている実力者だ。群馬県のロケにも同行して素材撮りをしてくれたので、合成に関して不安はなし。
 むしろここでも問題だったのは、フォーマットの変換。HDCAMの映像を合成用に連番のシークエンスに書き出さなければいけないのだ。前作までフィルム現像をお願いしていた東映ラボ・テックに相談する。ここらへん、HDはまだまだ機動性が良くない。というか、よく知らないまま酒の勢いでHDにトライする方が問題か……。(参照「現場スタッフ」

 夏に撮影が終わってから4ヶ月間、他のスタッフも交えてあーだこーだと言い合いながら編集。そして、2003年のクリスマスにSKIPシティへ行く。それまではダウンコンバートされたDVCAMの映像で編集していたが、編集室でじかにHDの映像を見て、かなりびっくり。きれいすぎて、見えなくていい物まで見えているのだ。きれいなことはいいことだが、見え過ぎはホラーにとって好ましくない。映像の明るさを落として暗くしてもらった。
 当日の編集室には亀山編集マンと監督がいたが、監督は予想外の事が起きない限り、特にやることもなし。たまに隣のビデオルームにHDCAMテープを交換に行くという、玄関から朝刊を運ぶ賢い犬ぐらいの役割だった。

 機械のトラブルから年明けにもう一度編集室を使う必要があったが、とにもかくにも編集終了。後は音の作業のみだが、実は編集終了間際にとても悩んだことがあった。『舌〜デッドリー・サイレンス』は映画の中の時制が何度も飛ぶ展開だが、「これでは観客が混乱するだろうか?」と不安になり、時制を説明するようなテロップを入れようかとクヨクヨと考えた。実際に編集室でも入れてみた。が、結局やめた。「そんな説明の仕方は映画ぢゃないやい!」と思えたのでした。

(補足;『舌〜デッドリー・サイレンス』DVDでは、逆にこの時制の問題を活用すべく、チャプターを時制で分けて日時をタイトルにしてみました。結果、チャプターは21個。余計わかりにくいだけやんか!)

技術的なことはよくわかりません、ハイ

埼玉県川口市にあるSKIPシティ

罵詈雑言を機械に浴びせながら編集する亀山氏

ビデオルーム